お知らせ

IKTTの工房に伺ってきました。

旅のはじまり

年明け、本展の日程が決まったときから、現地に行かないまま展示を迎えると、後悔する。
そんな思いがありました。

そして、こういう気持ちは言い訳をつけて無しにしてはいけないもの、だと思っていて

この伝統の森ができた経緯への強い関心と、この布が作られている場所を知りたいという思いを持って、カンボジアのシェムリアップ州にあるIKTTのお店と工房・伝統の森に伺ってきました。

*今回の旅では、IKTTの現地プロデューサーである岩本みどりさんに大変お世話になりました。
お店や伝統の森の見学において、様々なことを教えて頂きました。心から感謝申し上げます。

シェムリアップのお店

シェムリアップ州はカンボジアの北西部に位置しており、近くにはアンコール遺跡群があります。まずはシェムリアップ市街の近くにあるお店にお邪魔しました。

外観を撮影し忘れたのですが、木造2階建てで1階は工房、2階が店舗です。

カンボジアならではの建物の感じ、これまでWEB上で見た布が所狭しと並んでいる様に、高揚したのを覚えています。

階下の小さな工房では、糸を紡いでいる方と、括り(布を部分的に糸で括り、染め残しを作ることで模様を作る。後の織の工程で横糸になる)作業をされている方がいらっしゃいました。

糸を紡ぐ作業。ここできれいな糸を作ることが後の工程に活きてくる。

カンボウジュ種という蚕からは黄金色の糸がとれます。
IKTTを立ち上げた森本さんの本を読んだり、写真で見て、頭では分かっていたことですが、実際に見るとその色のまぶしさに、はっとしました。

括り手のスレンさん。長く勤めていらっしゃり、所作のとても美しい方。
作業場には作り手のお子さんが。

そうして、次は、この店舗があるところから車で北へ1時間ほど行ったところにある、伝統の森へ向かいました。道中、景色が少しずつ、農村の風景に変わっていくのを眺めつつ。

伝統の森へ

伝統の森は、大きな高床式の1階にある工房を中心とし、染め場、森に住む方々の家、畑、沼、ゲストハウス、故森本さんの母屋がある、一つの集落です。工房だけでなく周囲の家の軒先でも、糸を紡いだり、括り、織りをされています。

以下は工房での作業風景です。

この方が紡いでいるのは綿です。絹と同じくらい工程がかかるそう。
括り手の方々は一度括った模様は覚えているそうで、何も見ずとも作業ができるそうです。
織り手のソーンさん。IKTTのYouTubeには各作り手の方のインタビューもあります。

皆がござを敷いて作業をしており、あちらこちらで会話が飛び交います。

それぞれおしゃべりしながら、糸巻の音、機の音がして、子供の声と鶏のこけこっこーと鳴く声が重なる。工房の外の木々が風に揺れる音が聞こえる。生きているものの音に溢れた場所です。

森にはたくさんの子供たちがいます。お母さんのそばにいたり。

どこかで子供が泣くと、周りの作り手さんも子供に声を掛けたり。

もう少し大きい子たちは、数人集まってサッカーをしたり、ビー玉で遊んだり。

みんなで桑畑の前の、大きな木に登ったり。

次に、染め場へ案内してもらいました。
大きな釜の中には、ライチとインディアンアーモンドが煮られていました。

ライチ
インディアンアーモンド

釜の前では、大きなたらいに染め液を入れ、括り手の方が糸を染めている最中でした。

絹糸って繊細そうだから、そっと扱うもの・・・と思いきや、「カンボウジュ種で手引きゆえ、強い絹糸だから」とみどりさんが説明してくれた括りの糸は、じゃぶじゃぶ揺すって漬けられた後、たしーん、たしーん!とたらいに叩きつけられるのです。

浴びる染め液のしぶき。糸の中まで色が入るように、というこの作業。圧巻でした。

括り手のホーイさん。パワフルなお母さんです。
染め場のすぐそばには、インディアンアーモンドの木が植わっていました。

糸を染めるための染料となる木。
その他にも、各家の周囲には、マンゴーやジャックフルーツなど食べられるものが生る木、薬になる木が植わっています。森本さんは予め想定して植えられていたそうです。

左から、生糸、ラックカイガラムシ(赤と紫)、プロフー(黄色と緑)、ココヤシ(茶)、ライチ(グレー)、インディアンアーモンド(黒)で染めたもの。

植物染めというと、なんとなく彩度が低いイメージを持っていたのですが、とても明瞭な色が並んでいました。

伝統の森の畑

ここは桑畑です。
養蚕に必要な桑が足りなくなったため、新たに畑を増やしたそうです。

スプリンクラーは畑から離れた場所にある沼から水道管を引き、ソーラーで回しています。
森に住むご家族の男性方が、畑や設備、布に関わる器具などを作っていると聞きました。

桑の挿し木。鍬で畝を立てながら、男性が植えていました。

ここは牛舎です。糞をたい肥として使用します。

牛は沼の近くの別の場所に放牧されていました(遠くにいる白いものが牛)。最近、牛担当の方が変わり、ふくふくまるまるしてきたそうです。

工房から少し離れたところでは、男性方が伐採した竹の節を斧で取る作業や、竹を半割にする作業をされていました。これらの竹で糸を巻く棒も作るそうです。

↑ シェムリアップのお店で販売されている糸。

各家の軒先には

貯水タンクがあったり

別の場所には、大八車があったり

日本では見ない植物がいたり

おそらくチャンパーの木(だと思います)。
落ちていた花がこちら。

ちなみに畑とは別に…
鶏は至るところにいて、一羽が鳴くと、別の場所にいる雄鶏が鳴き、それを聞いてまた別の場所にいる雄鶏が鳴き、遠くで別の雄鶏が鳴き、また戻ってきて最初の一羽が鳴き…という、永遠に鳴いているんじゃないか、というループと、にぎやかさが常にありました(昼夜問わず)。

森での3日間

プロデューサーのみどりさんにお願いし、3日間、伝統の森のゲストハウスに宿泊させてもらいました。

そうして、工程に支障のない作業を手伝わせて頂きたい、ということを申し出たとき、みどりさんは二つの仕事を体験させて下さいました。

一つは括りの紐を外す作業です。
染めが終わったあとの紐を外すこの工程は、模様が現れてくる美しい瞬間です。

ちなみに、カンボジアの方々は日頃、何かを括ることを頻繁にされているためか、括るのも外すのも手早いです(つまり私は、恐ろしく不器用でしかありませんでした)。

括りを外し終えた糸は、翌々日、このように織られていました。モダンで美しいです。

もう一つの作業は

染め材であるライチを小さく削る作業です。
外皮(茶色い部分)を除いて、赤い部分だけにし、それを細かくして

この大きさにします。

道具は鉈のようなもので、私はここでも不器用さを発揮したため

隣で糸を紡いでいた方が、(クメール語なので分からないのですが、なんとなく「ちょっと貸してごらん」と言ってもらって)外皮を外してくださいました(感謝)。

みどりさんが作業中の私を撮ってくれたので、こんな感じで作業していましたというのを載せておきます(思ったよりライチは硬かったです)。

この日の気温は36度。でも、2月末~3月初めはまだ気候の良いときです。暑いときには40度を超えると聞きました(もちろん伝統の森にクーラーはありません。扇風機はあります)。

作業中にふと頭を上げると、周囲にいろいろな動きを見ます。打ち合わせたり、休憩していたり、子供が帰ってきてお母さんのそばに来たり。

鶏が作業場に入ってきたのを、子供たちが追い出したり。横を見ると、隣で犬が寝てたり。

あちこち写真を撮りました

二つの糸を撚る作業をされている方。
織り手のソーンさん。縦糸を張っているところです。
朝はみんなで落ち葉をお掃除していました(もちろんおしゃべりしながら)。活気あふれる一日のはじまりです。
近隣から工房に通ってくる方々は、集まってお昼ごはんを食べます。
森にやってきた野菜の移動販売の方。みなさんあれこれ買ったり、あとで別の方に「買っといたよー」と手渡したりされていました。
ココヤシの染め液を作るために浸しているところ。
織り手で夜も作業されている方もいらっしゃいました。
括り途中のものは軒先に掛けられています。みどりさん曰く「美術館のよう」。
クロマ―(カンボジアの万能布。頭に巻いたり首に巻いたり。手ぬぐい…のようなものでしょうか)を織るための糸の準備。
上記の糸を使って、こう織られます。
右が織り手のソーンさん。左がその娘さんであり、ソーンさんが織っている布の括りをされた方です。娘が括り、母が織る。機の音と周囲の虫の音。この夜の雰囲気をよく覚えています。
こちらは先日準備していたココヤシで、布を染めているところ。
日曜(休日)の工房。織り手の方は作業されていました。

終わりに

伝統の森からシェムリアップ市内へ帰るときの風景です。

稲作をしている地帯で、雨季を利用して二期作、もしくは三作(年3回作る)している場所もあるそうです。

IKTTの布の魅力。

それは人・場所・環境の存在なしには成し得ないと感じています。

私は印刷所を立ち上げた経緯もあって、今回の旅は改めて「場」というものを考える良い機会となりました。

奇しくもニキのお野菜屋のニキが「まさに私が東南アジアの農山村から学んできた生き方だ」と話してくれ、ニキや私たちの田畑があるところを「森に変える」と断言したことと、この旅の記憶が私の中で重なっています。

シェムリアップ空港の美しい夕焼けとともに

今回の旅と、展示に関わって下さった全ての方に御礼申し上げます。

本当にありがとうございました。

また、伝統の森に伺います。