“あの人”紹介

around(アラウンド)代表・建築家
黒田 淳一氏

「やってみたい」「実現したい」を後押しする“新しい価値”をつくりたい。

鶴身印刷所の家主が、ぜひご紹介したい “ あの人 ” 。今回は“ 思い描く暮らしを実現する ”をテーマに「出来事づくり」「建物・空間づくり」「モノづくり」に関わる事業を展開するaround(アラウンド)代表で建築家の黒田 淳一さんです。現在の活動やお仕事への想い、今後の夢などをお聞きしました。

文:林 弘真

地域活動やイベントプロデュースもする建築家。

地元 山梨の高校を卒業し、2つの専門学校(インテリアデザイン・建築設計)で学んだ後、建築設計事務所や建材メーカーで建築業界のあらゆる仕事に携わってきました。そして、2016年に独立。独立当初は、設計はもちろん、様々な仕事をしながら、リノベーションスクールで学んだり、いろんな人に会ってお話をお聞きしたりしていました。そんな中、全体の3~4割しか開店していないというシャッター商店街「蕪村通り商店街(大阪市都島区)」を盛り上げたいという商店街会長さんに出会い、意気投合。地域活性のための活動をスタートしました。手探りの状態で出展者を募り、多くの方の協力を得て、マーケットイベント「ぶそん市」を開催。さらに、出展者の方が日常的に活動できる拠点として、商店街の空き店舗を利用したレンタルスペース「arch(アルヒ)」をオープン。企画から運営まで、すべてを自分たちで行い、チャレンジを積み重ねることで、少しずつ商店街に賑わいが増していきました。

物販やワークショップなど様々な店が集うマーケットイベント「ぶそん市」
商店街の空き店舗を利用したレンタルスペース「arch(アルヒ)
※2021年大阪市あきないグランプリ優秀賞・特別賞(日本空間デザイン協会賞)

活動を通じて、ご縁がどんどんつながっていく。

商店街での活動は2022年3月で休止となりましたが、この経験から、始まりは自分たちの手でつくれるんだと実感できました。そして、魅力的な出展者さんたちに出会えたのは大きな財産です。現在は、ぶそん市やarchに出展されていた方がお店をオープンされる時の設計をさせていただいたり、企業さんのことづくり事業に関するコンサルティングなどもしています。また、ぶそん市をご存知だった「パンデシンプル」さんと、人と人との「ご縁」が紡ぐマーケット「En-nichi(エンニチ)」を共同で運営しています。鶴身さんのご紹介で、鶴身印刷所に入所された「comecoLABO(コメコラボ)」さんの店舗設計もさせていただきました。ちなみにcomecoLABOさんの内装施工をしてもらった茶本さんは、鶴身さんのご紹介でコーヒー店としてぶそん市に出展されていた方。その後、DIY好きが高じて工務店に就職されたと知り、「それならば!」とお願いしたんです。これまでの活動を通じて、ご縁がつながり、いろんな機会をいただいています。

人と人との「ご縁」が紡ぐマーケット「En-nichi(エンニチ)」-毎月第3土日開催-
米粉を使ったパンやお菓子、グルテンフリー料理の提供や教室「comeco LABO(コメコラボ)」

「あたりまえの分解展 紙と印刷のDIY」を開催。

鶴身さんには本当に色々とお世話になっています。また、私が発起人の「TEAM WAGIRI」メンバー(石版印刷工)としてもご協力いただいてるんです。 TEAM WAGIRIの企画「あたりまえの分解展」は、日常を輪切りにし、世の中の“あたりまえ”ができるまでを紐解く試みです。名刺やポストカードって、完成品を受け取るだけで、どうやって作られているのか全く分からないもの。もっとプロセスを楽しむ、建築で言うところのDIYを印刷物でもできないか?それを体験するイベントをやってみたい!と思ったんです。しかし、私は印刷について全くの素人。その想いを紙や印刷に強い方々に相談すると皆さん快く応じてくれて、イベントを開催できることになりました。今回のテーマ「紙と印刷のDIY」は、ポストカードができるまでのプロセス(企画・デザイン/紙選び/印刷)を展示し、石版印刷で実際の印刷を体験できるワークショップも実施します。クリエイティブをより身近に、自分でモノをつくる楽しさを感じていただけると幸いです。

日常を「輪切り」にして捉え直すプロジェクト「あたりまえの分解展  紙と印刷のDIY」

私の考えるデザインとは、価値をつくり出すこと。

2020年11月からは、屋号を新たに「around(アラウンド)」とし、「出来事づくり」「建物・空間づくり」「モノづくり」の3つを事業の柱に活動しています。ハードである建物・空間とソフトである出来事とモノ、それぞれをデザインする。私の考えるデザインとは、価値をつくり出すこと。それらの価値を掛け合わせ、さらに新しい価値を生み出したいです。それが、その人の暮らしを豊かにする、自分が「やってみたい」「実現したい」というものに近づく要素となればいいなと思います。新しい価値をつくるということは、そこに必ず新しい発見があるはず、「あ、こんな考え方があったんだ!」と視界がパーっと開く感覚をたくさん経験したいです。そのためには既成概念にとらわれず、考え方や見方を変えることで価値を生み出せないかということにこだわり続けたいです。商店街の活動が一区切りし、今、地域に対して新しい価値を生み出すことができていないのはとても寂しい。また自分の拠点となる場所を探して、もう一度archという名前の店をオープンしたいです。地域のことはもちろん、ぜひ、いろんなことに巻き込んでいただけると嬉しいです。

around(アラウンド):
Web サイト:https://create-around.com

家主:鶴身 知子
私が思う 黒田さんの“特にここがいいところ”

家主:鶴身 知子

黒田さんは私にとって「地域づくりの先達」です。

初めてお会いしたのはぶそん市に伺ったときでした。

商店街店主の方々の高齢化や町の在りようの変化から、シャッターが閉められているお店の多い中、様々なジャンルの作り手の方が市に出展され、人が集い、あたたかく活気あふれる様子を今も良く覚えています。

そののち、どうしてご自身が「新築の建築士の道を選ばなかったか」というお話を伺ったことがあります。

ご自身のご出身地の状況もお話された上で

「これから先、空き家が出てくることは避けられないと思います。そのときに新しい建物を建てることに携わるより、空き家や地域の課題に対して設計(デザイン)できる建築家でありたい」

という思いをお聞きしました。

物腰やわらかく温和な黒田さんの、絶対にぶれないであろう中心に触れた心持ちでした。

黒田さんの思いやお人柄が作る場は、ぶそん市やarch出店者の方々との関係性、その多様さに現れていると思います。

陽だまりのようでいて、輪郭がはっきりとした初夏の空のような
あたたかさと豊かな色に彩られた場所を作り続ける黒田さんだと、私は感じています。